震災・防災/阪神・淡路大震災

 講座企画塾 HOME > 震災・防災/阪神・淡路大震災 > 仮設の“孤独死”と家族幻想

仮設の“孤独死”と家族幻想(1997年5月)


阪神・淡路大震災から2年と4カ月が過ぎた。神戸では昨年12月には光の彫刻・ルミナリエが話題となって人出を賑わし、今年に入ってからも老舗百貨店や異人館の再開などのニュースが相次ぎ、いっけん復興は着々と進んでいるかのように見える。

ところが表通りから一歩裏側に回ると、更地のままの土地はまだいたるところに残され、各所に点在する仮設住宅に今も3万4千世帯、6万人以上の人が住むことを余儀なくされている。

そしてその仮設住宅で、震災以来兵庫県内だけでも 150人が“孤独死”している、というか、させられている。

その“孤独死”した人の7割以上が男で、それもその半数以上を50代、60代が占めているという。

“孤独死”という言葉には シングル差別のニュアンスが

そのことの意味するものを考える前に、“孤独死”という表現に少しこだわってみたい。この言葉は震災以降に使われはじめた言い回しで、「一人暮らしの人が死んでから何日か経ったあとに発見されるそのような死」のことを指すようだ。

震災前にもそのような死はあったのだが、それは単に「病死」あるいは「変死」というように表現されていたはずである。では、なぜ“孤独死”なのだろうか?

そこには、「もし誰か家族と一緒に暮らしていたら家人が気づくので、病院に運ばれて死なずにすんだ」という判断がある。そしてそこに、「一人暮らしだったから誰にも気づかれずに“孤独”に死んでいった」という「価値観」が安易に付与された。

つまり“孤独死”という言葉は、「一人暮らしは寂しい、哀れだ」「だから結婚しろ」というシングルに対して社会に遍在する偏見や脅迫に乗っかった不用意な表現なのではないだろうか。  事実、震災後、「家族のありがたさ」「家族の見直し」「結婚志向」などがさまざまなメディアで繰り返し取り上げられている。

一家の柱は折れるともろい?

ところで、なぜ仮設で、女より男の方がより多く“孤独死”するのだろうか。

新聞記事で見るかぎり彼らが震災前から一人暮らしだったのかどうかはわからない。震災をきっかけに一人暮らしになった人も何割かはいるだろう。ともかく、死亡した時点ではほとんどの人が無職であるのが一つの特徴である。

ここから、いくつかのことが想像される。震災で家をなくし、そして、ある人は同時に家族をなくし、また仕事を失った。

だが、震災前から一人暮らしの経験の長い人は、たとえ男であろうと、健康管理や近所付き合いなどさまざまな生活の知恵をそれなりに身につけていたはずである。だから、災害時でも周りの人と支えあって、なんとか暮らしを成り立たせていくことができる。

ところが、それまで一家の主として家族を支えてきた人の場合、家や家族や仕事を失った時、アイデンティティというか、それまでの自分を支えていた拠り所を失う。自分の過去や現在や未来を失って、呆然自失というか、生きる気力をなくしてしまうのではないだろうか。そんな状態では、仕事を持っていた人でさえヤケをおこして、やる気をなくして、やがては失職する。そして、さらに自暴自棄になるという悪循環に陥ってしまうことになる。

一人の人間として生きる力を

「家族幻想」や「男らしさ幻想」を強く抱いている人ほど“孤独死”の可能性を具えていると言えば言い過ぎだろうか。50代、60代、ましてや40代の男たちが一人であるいは、家族と暮らしながら、“一家の主”という重い鎧を背負いこんで自らを追い詰めて精神や肉体を病み、あるいは死んでいくのを見聞きするのは、とてもつらい。せっかく震災で生き残ったというのに。

「家族幻想」や「男らしさ幻想」を捨てれば周りの人の力を気軽に借りることもでき、もっと素直に、もっと楽に生きていくことができるのにと思う。

(大阪府男女協働社会づくり財団発行 ドーンセンター情報誌「DAWN(ドーン)」No.11(1997.6)に掲載した原稿の元原稿)

震災・防災/阪神・淡路大震災

防災・震災・阪神・淡路大震災 トピックス

阪神・淡路大震災(1995年5月1日、「屋台村通信」創刊号、7月1日「屋台村通信」第2号)

これまでに行ってきた震災・防災/阪神・淡路大震災関連講座

「阪神・淡路大震災記録写真集―神戸市灘区水道筋95年1月17日」(8.70MB)

阪神・淡路大震災をめぐる吉田清彦論稿集
「次はあなたの街かもしれない−兵庫県南部地震報告」(1995.1.20)
「懐中電灯とラジオ 各部屋に常備を 吉田清彦さん地震体験記 ガスの元栓まず締めて 保存食の必要性を痛感」(「京都新聞」1995年1月24日)
「もっと多くの命が救えたのでは =「被災者」側からみた震災報道=」(1995.2.3)(「月刊マスコミ市民」316(1995年3月))(6.32MB)
「月刊マスコミ市民」316(1995年3月)表紙&目次(1.97MB)
「もっと多くの人を救えたかもしれない―「被災者」側から見た震災報道」(1995.2.3)(「屋台村通信」創刊号 95.5)(8.38MB)
「震災の街から」
「仮設の“孤独死”と家族幻想」(1997.5)
「仮設の“孤独死”と家族幻想」(ドーンセンター情報誌「DAWN(ドーン)」11 1997.6)(1.78MB)
「孤独死と「家族幻想」」(「神戸新聞」1997年12月26日)

「阪神大震災ボランティアノート わたしの見た「ちびくろ救援ぐるうぷ」」(南野容子)(1995.7.3)(「屋台村通信」第3号 95.8)(4.81MB)

関連記事:「一人暮らしの防災対策…備蓄・隣人の支援で明暗」(「読売新聞」2010年1月16日)
関連記事:神戸大学附属図書館/震災文庫収集資料リスト/分類:6 市民生活
関連記事:神戸大学附属図書館/震災文庫収集資料リスト/新着/1999/08/01−31


サイトマップ


吉田清彦プロフィール
(各種講座講師実績豊富)
E-mail:ptokei04@s5.dion.ne.jp
TEL/FAX:06-4980-1128
携帯電話:080-5709-1944


     

TOP

by 講座企画塾